「村で暮らし続ける」を実現する「地域商社」として
道の駅お茶の京都 みなみやましろ村 in 京都
山間の小さな村の「地域商社」。
道の駅からはじまる
新しい「村」のかたち。
(株)南山城
代表取締役 森本 健次 氏
昨年4月にオープンしたばかりの道の駅「お茶の京都 みなみやましろ村」。
人口3,000人足らずの村にある道の駅だが、オープンしてからの1年間でレジ通過者数だけで約40万人を記録、そこから計算すると、来場者は80万人以上とも考えられる。
主要産業がお茶という村の道の駅を運営するのは、元村役場職員が代表を務める「地域商社」。
今回は、道の駅を運営する(株)南山城の代表取締役 森本 健次氏に、開発商品、品揃え、デザインについて、そしてそれらに込められた「成功のポイント」についてお話を伺った。
光るものがあれば、それを探して人が来る。
京都にも「村」があることはご存知だろうか。三重県、滋賀県、そして奈良県との県境に位置する、京都府唯一の村、南山城村だ。
人口は2,795人(2018.4.27現在)で、特産品はお茶。その品質は高く、宇治茶の主産地として知られている。
道の駅お茶の京都 みなみやましろ村
その南山城村に昨年4月にオープンした道の駅「お茶の京都 みなみやましろ村」は、その名があらわすように、お茶をテーマにした道の駅だ。
「オリジナル商品はお茶の一点突破です。」と森本氏が話すように、オリジナルの茶葉に始まり、お茶を普段飲まない人の入り口としてのスイーツや、お茶の体験セットなどもある。また、宇治茶は南山城村をはじめとした各地の茶葉を、一流のブレンド技術で、安定した高品質のお茶として提供しているが、その原料である南山城村のお茶そのものは、80件のお茶農家があれば80種類のお茶があるというように、それぞれ個性のある味わいがある。だからこの道の駅では、普通のお茶屋さんでは売らないような個性的なお茶、ここでしか出会えないようなお茶も取り揃えている。
左:村の抹茶を使った「村茶パウンドケーキ」。
右:ペットボトル「ちゃどころ茶むら茶」。緑茶と番茶がある。
茶葉やスイーツなどは、どれも決して安さが魅力の商品ではない。ちゃんとしたお茶を使ってつくるものなので、少し高めの価格設定になる。しかし、例えばオリジナルスイーツで人気の「村茶パウンドケーキ」は一本1,200円(税込)という価格だが年間7,000本、一番の人気商品であるペットボトル茶「ちゃどころ茶むらちゃ」(150円・税込/350ml)に至っては、年間50,000本という販売数を誇る。
「村の抹茶を使った『村抹茶ソフトクリーム』も大ヒットした商品ですが、1本400円という、ソフトクリームとしては高めの価格です。でも『お茶どころだから濃厚』という期待に十分応えられる商品ですので、食べた方は満足してくださいます。」
消費者の期待に応えられる商品だからこそ、価格ではない点で選ばれ、売れ続けているのだ。
「村抹茶ソフトクリーム」は、抹茶の濃厚な風味と味わいで大人気。
南山城村は県境に位置し、決して交通アクセスがいい場所ではない。しかし、道の駅ができてから都市圏からの車が村内で多く見られるようになった。わざわざ道の駅を目指して訪れるのだ。
森本氏が前職の村役場職員時代に築いたメディア関連の人脈も活かされ、オープン前から多くのTVや新聞、雑誌などに取り上げられたこともその要因の一つだが、一番の理由は「お茶」という道の駅のテーマと、村のお茶を使ったオリジナル商品が人の目に魅力的に映ったからである。
「何か光るものがあれば、人はどんな場所でもわざわざ探して来てくれるんだと実感しました。」と森本氏は話す。
山間の小さな村の「地域商社」。
道の駅からはじまる
新しい「村」のかたち。
食堂「つちのうぶ」のいちおし「つちのうぶの村定食(煮豚)」(1,200円・税込)。
村人直伝のレシピで作った料理やほうじ茶を使った茶飯など、村の食卓の味が楽しめる。
お茶の他にも、道の駅にはこだわりがある。
一般の店舗などと同様に、道の駅でもオリジナル以外の商品やお土産品は、商社が持ち込むことが多い。しかし、道の駅「お茶の京都 みなみやましろ村」の場合は、道の駅側から必要な商品のために商談に出向くそうだ。それは「この道の駅に置く理由、そしてそこに物語が見えてくるものしか置かない」ため。
「例えば店内には、『三国のもん』と銘打って、三重や滋賀、奈良のものも置いています。あまりご存知ない方だと、不思議に思うかもしれませんが、このあたりは昔から三つの国に接しているという意味で『三国(みくに)』と呼ばれ、三重や滋賀、奈良との結びつきが非常に強い地域なので、その地域の野菜やお土産品などを置いています。こういう品揃えからも村の人の暮らしや文化そのものが感じられるように、まさに道の駅が『村のダイジェスト』となることを目指しています。」
「デザイン」も、村の物語を伝える大切な要素。
また、この道の駅を訪れると、個性的でありつつも統一されたイメージのデザインに溢れていることに気づく。
道の駅のデザインは、地域に密着したデザインで評価の高い、サコダデザインの迫田司氏の指導のもと、地元のデザイナーと考えて作り上げた。
村のお茶を使ったオリジナル商品には、統一したロゴが使用されている。農家の手描き文字がモチーフ。
「特に重要なのは、デザインで村や商品の物語、背景を表現するということだと教わりました。私たちはそれにならって村の物語、そしてお茶とは何なのかというところから発想し、道の駅で使うデザインを考えていきました。例えば、お茶を使ったオリジナル商品についているマークは、お茶農家の人が農作業の中で描いた、手描き文字をモチーフにしています。店内の各施設のロゴに使われている書体も、昔から村で使われていた『茶箱』に印刷されていた文字をもとに作ってもらいました。また、道の駅のロゴやユニフォームには紺色を使っていますが、これは昔の野良着の色です。生業としてのお茶と、村の人々の生活を物語るデザインであることを大切にしました。」
左:施設名の書体は、茶箱に印刷されていた文字をもとに作られている。
右:昔の野良着の紺色を使った、道の駅スタッフのユニフォーム。
お茶と村の物語を表現するデザインで道の駅を統一することで、道の駅を通して「お茶」「南山城村」のイメージを立たせることができる。つまり、道の駅のブランディングを行なっているという訳だ。しかしそれは決して道の駅のためだけではない。
南山城村は知る人ぞ知る宇治茶の主産地ではあるが、南山城村のお茶自体はこれまで、宇治茶というブランドが大き過ぎるが故にその陰に隠れてしまっていた。そこから南山城村のお茶をブランディングしようと考えても、宇治茶だけではなく、すでにブランド茶が全国に数多くあるお茶の世界で新たにブランドを確立するのは難しい。
でも、お茶をテーマとした道の駅がブランドとして広く認知されれば、道の駅の知名度や信頼度の向上につながり、「道の駅で販売されるものは間違いない」ということで、自然と村のお茶の知名度や信頼度も上がる。道の駅をうまく利用すれば、結果として村のお茶のブランディングも可能となる。
道の駅で使われているデザインは、昨年1年間に道の駅を訪れた80万人以上のお客様だけではなく、道の駅の商品を目にした人、手にした人、道の駅の記事などに触れた人たちに、道の駅と南山城村のお茶を常にアピールしているようなもの。
デザインは、道の駅と村のお茶のブランドを確立するための強力なツールとして、すでに機能しはじめている。
山間の小さな村の「地域商社」。
道の駅からはじまる
新しい「村」のかたち。
「道の駅」という「装置」を活用する「地域商社」。
南山城村に「道の駅」建設の話が持ち上がったのが今から7年ほど前のこと。その後、南山城村の職員として、廃校利用や地域の課題解決に走り回っていた森本氏に、道の駅を担当するよう特命がくだった。
「それまで村では、高額な施設の建設による財政難が続き、いわゆる『箱モノ行政』への不信感が高まっていました。でも、自分が関わる以上、批判の対象になるようなムダな『箱モノ行政』に加担したとは言われたくなかったので、絶対に結果を出してやろうと思っていました。」(森本氏)
森本氏は村の職員でありながら、第三セクターである(株)南山城に代表取締役として出向することとなった。
村のオリジナル商品の原点「南山城紅茶」。茶農家と一緒に森本氏が企画した。
「いろいろな道の駅を視察する中で、ある道の駅を運営している方に『役所の人間に何ができる?』と言われました。確かに、自治体の職員でいる以上、2〜3年で部署を異動することになり、ずっと道の駅に関わることは不可能です。自分がそれまで作り上げたものを後で他の人にいじられるのも嫌だと感じていたので、その言葉で吹っ切れて『腹をくくります!』と宣言して、後に役場を辞めました。」
道の駅を運営する(株)南山城は、地域の特産品や観光資源を国内外に向けて売り込む、いわゆる「地域商社」である。森本氏は運営に関してはこう話す。「役所がイベントなどを開催する場合は『何万人来たから成功』とすることが多いように思います。でも、問題はそれをどう経済効果に変えていくか。道の駅はその経済効果を生み出す装置にならなければいけません。当然私たちの会社も、パートを含めて約50人の従業員を食べさせるために、利益を上げていかなければなりません。『村おこし』を第一にしている訳ではありません。でも、私たちが利益を上げるために活動したことが、結果として『村おこし』になればいいと考えています。そして、『村で暮らしつづける』ことを実現できる村にしていきたいですね。」
(株)南山城のロゴ
ここで改めて(株)南山城の会社のロゴを見てみよう。
大きく書かれた「村」の字。それを囲む円は、一部が空き、「株式会社 南山城」がそこから飛び出しているようにも見える。
これは、「村」であることの良さは残しつつも、村社会にありがちな閉鎖的なしがらみは突破しよう、という考え方によるもの。
道の駅「お茶の京都 みなみやましろ村」から、これからの新しい「村」のかたちが見えてきそうだ。