Posted:2018-2-1

「おすそわけ」が村を元気にする!

道の駅清川 in 神奈川

「売る」というより「おすそわけ」。

お客様も村民も元気になる、

小さな道の駅だからこその「成功のポイント」。

清川村長 大矢 明夫氏

清川村長 大矢 明夫氏

平成27年11月に神奈川県の3番目の道の駅としてオープンした道の駅清川。

もともとあった村の交流促進センターをリニューアルする形で営業を始めた道の駅で、小規模な売場面積にも関わらず、オープンしてからの1年で前年比185%以上の売り上げを記録した。現在でも毎月、前年を超える売り上げを記録し続けている。

道の駅の駅長でもある清川村長の大矢明夫氏にお話を伺うとそこには、小さな村、小さな道の駅だからこそ辿り着いた「成功のポイント」があった。

まずは「地元」の範囲にこだわり過ぎない。

道の駅清川道の駅清川

神奈川県愛甲郡清川村。人口は2,979人(平成29年12月31日現在)、神奈川県唯一の村である。 都心から50kmほどしか離れていないとは思えないほど雄大な自然に囲まれたこの村は、首都圏の人々には「宮ヶ瀬ダム」のある村と言った方がわかりやすいかもしれない。特に冬にはダム周辺を中心にイルミネーションが施され、多くの人々で賑わいを見せる。
その清川村に、平成27年11月21日、道の駅が出来た。山あいにある、決して大きくはない道の駅だ。一階には新鮮な農作物や地元のお土産などの販売所、二階には工芸品などの販売所と休憩所などがある。運営は清川村の森林組合だ。

道の駅清川左:毎年11月下旬〜12月下旬頃、宮ヶ瀬ダムに隣接する宮ヶ瀬湖畔園地を中心に開催される「宮ヶ瀬クリスマスみんなのつどい」の様子。
右:春の宮ヶ瀬湖畔園地では1,000本の桜が華やかに咲き乱れる。

「道の駅の登録、オープンまでは本当にタイトなスケジュールでした。何せ、地元で道の駅の勉強会を開いてから1年半ほどでオープンですから。」と、大矢村長は振り返る。
神奈川県内は郊外にもあちこちに大型の商業施設があるため、かつては道の駅の必要性が低いと考えられてきた。しかし、大きな商業圏を持たない地域では、他の地方自治体と同様に過疎化や高齢化が進んでいる状況は変わらない。そのため近年、地域振興の観点から道の駅の設立が改めて考えられるようになったという。清川村もその流れの中で、国や県から推薦を受けたそうだ。
「道の駅設置に伴う勉強会」を設置したのが平成26年6月、その年の12月には村で道の駅を設置することに決定した。それから1年後の道の駅登録を目指して、様々な手続きを進め、出店者や地元の生産者にも説明を行った。建物や施設は既存の村の交流促進センター「清流の館」をリニューアルすることにしたため期限までには間に合いそうだったが、他にも課題はあった。
「最も苦労したのが、農作物です。清川村は面積の約90%を山林が占めていることもあり、もともと耕作地が広くありません。それに昔ながらに栽培しているものはどの農家も同じようなもの。そのため村内で安定的に多種の農作物を揃えることが非常に困難でした。」

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清川村長 大矢 明夫氏

「売る」というより「おすそわけ」。
お客様も村民も元気になる、
小さな道の駅だからこその「成功のポイント」。

道の駅清川

地元の新鮮な農作物は、道の駅を訪れるお客様が特に求めるもの。期待してきたお客様を品揃えの悪い売り場でお迎えしたくはない。そこで、清川村にも支所があるJAあつぎを通して、厚木市など近隣で生産された農作物も仕入れることにした。もともと厚木市、秦野市、伊勢原市などの近隣エリアとは行政や観光の面で強いつながりがあったが、その中で道の駅があるのは今のところ清川村のみ。直売所などは他にもあるが、道の駅を目指してやってくるお客様にとって道の駅清川は、このエリアに出会う窓口になる。そのため近隣エリアの農作物が入ることによって、道の駅の品揃えの問題を解決した上に、周辺広域のアンテナショップとしての役割も明確化することができた。
品揃えよりももっと清川村にこだわるべきだったのだろうか?
これは、農作物の収穫量が少ない地域にある他の道の駅でも頭を悩ませている問題だが、少なくとも清川村での現時点の答えは、「清流の館」から道の駅に変わって伸びた、前年比185%という売り上げの数字に現れている。

「おすそわけ」の感覚を大事にする。

道の駅清川清川村産を中心に、地元産の新鮮な野菜や果物が並ぶ。

品揃えの問題は解決したが、それでもやはり今後は「清川村産」の農作物を増やしていきたい。村内の生産者の協力は不可欠だ。 「村内の生産者には1日に3回、売場の状況をメールで伝えています。道の駅オープン当初は反応が悪くて…。『持ってきて!』とお願いしてもなかなか持ってきてくれない。これには参りました(笑)。小規模な農業を行う村内の多くの生産者にとっては、自分の家で余った分を『おすそわけ』する感覚なんです。売れることを考えていないから、あまり積極的ではなかったんでしょう。」
売り物として栽培した訳ではないので、生産者が商品につける値段も相場よりもお得な値段になる。すると道の駅を訪れた人がそれに気づいて、徐々に商品が売れていくようになる。
「道の駅で自分たちの農作物が売れることがわかって、生産者のやる気も上がっていったようです。だんだんとお客様の声を生産に反映させて、農作物の品種を増やしたり、時期をずらして栽培したりして売場を充実させようとする生産者も増えてきました。」

道の駅清川左:「きよりゅんアイス」清川茶を使ったスッキリした甘さのアイス。「きよりゅん」は村のマスコットキャラクター。
中:清川村産ゆずを使った「ゆずスパークリングワイン」。
右:「丹沢山麓 村のはちみつ」清川村産の純粋なはちみつなのにお手頃価格。特に都心からのお客様に人気。

清川村には、清川茶、ゆず、清川恵水ポーク、きよかわ自然薯など多くの特産品がある。空気と水がおいしい土地なので、水道水まで美味しいという。道の駅ではそんな多くの良質な素材を使ったオリジナルの加工品も人気だ。
清川村では最近、地元の外から移住して地域活動を支える「地域おこし協力隊」を増員した。様々な経歴を持つ彼らと一緒に地元の新たな特産品の開発を強化している。そこでも、村のいいものを手軽に知ってもらいたい、分けてあげたいという「おすそわけ」の気持ちを大事にしている。

道の駅を訪れるお客様は商品をお得に購入でき、生産者にとっては余った農作物で今までになかった収入が入り、清川村にとっては村の良さをアピールできる。「おすそわけ」の感覚によって、関わる誰もが得をするいい流れがここでは出来つつある。規模の大きい道の駅では、スーパーマーケットのような規模の大きい仕入れが必要だが、道の駅清川は規模が小さい生産者が集まった小さい道の駅だからこそ、「おすそわけ」の感覚をそのまま売場に持ち込みやすかったのだと考えられる。

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清川村長 大矢 明夫氏

「売る」というより「おすそわけ」。
お客様も村民も元気になる、
小さな道の駅だからこその「成功のポイント」。

「作って売る喜び」で、生産者を元気に。

道の駅清川道の駅と農業のおかげで、清川村には元気な高齢者がいっぱい。

大矢村長には、道の駅設立によって実現しようとしたもう一つの目的があった。 「道の駅と農業で、特に高齢の村民を元気にしたいと考えていました。農作業で身体を動かすだけではなく、『道の駅でもっと売れるためにはどうするか』と考え、その目標に向かって努力するようになれば、認知症予防にもなるでしょうし、売り上げがあればこづかいが手に入って達成感もある。道の駅を通して生産者同士のコミュニケーションの輪も広がって、それも楽しみにつながります。道の駅と農業の組み合わせは『生きがい』にもなる最高の健康法じゃないでしょうか。」
商品を「売る」ことよりもまず、生産者の元気につながることを考えた。だから、売れる売れないはまず置いておいて、とにかく売場に農作物を持ってきてもらうように声を掛け続け、「作って売る喜び」を知ってもらうようにした。生産者はどんどんやる気が出て元気になり、それが結果的に道の駅の売り上げ増加にもつながった。

そして道の駅オープン前の平成26年度には115人だった「清流の館」の登録生産者も、平成29年度の道の駅清川では177人。生産者も増加し、そのおかげか長年使われていなかった耕作放棄地も減少しているそうだ。

道の駅清川

道の駅清川の内容をさらに充実させるために、平成30年の4月からは運営を民間の指定業者に委託する。
現在一階にある森林組合の事務所を別の場所に移転し、売場を増床する。そこには村の特産品を使った食堂も入る予定だ。
「昔は冠婚葬祭の時などに地域の人々が集まって、宴会用の料理をみんなで作っていました。その時に、地域の長老たちから若い世代にも地元の味が伝えられていたんですが、今はそういうことも無くなりつつあります。だから、その地元の味を道の駅の食堂や加工所で復活させたいと考えています。『田舎の味は美味しい』ということを村外の人にも伝えたいですし、村の人にも思い出してほしいと思っています。」

住民は3,000人足らず、農作物も少ない。オープンまでの期間も短い。それは決して道の駅にとってやりやすい環境とは言えない。
しかし、その環境の中で、お客様のために品揃えを充実させ、「おすそわけ」の感覚を大事にし、売ることよりも「作って売る喜び」を生産者に伝えたことは、むしろ小さな村、小さな道の駅だからこそ大きく効果が出た戦略だった。

オープンから2年と少し。道の駅清川の基盤は出来た。
運営が変わって、ここからどう変わっていくのか。小さな村と小さな道の駅の今後の取り組みにも、大きな期待が持てそうだ。

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