町の中に人を呼び込め!観光協会が道の駅で成し得たこと
道の駅世羅 in 広島
「道の駅」から町の中へ人を呼び込む。
その目的に特化し、方策を忠実に追い続けた
町の「観光協会」が運営する道の駅の「成功のポイント」。
(一社)世羅町観光協会
道の駅世羅 担当課長
土田 昌克氏
道の駅に期待される役割の一つに、地域の「ゲートウェイ(入り口)」としての役割がある。道の駅を訪れた人を地域の中へ誘導し、そこで観光や食事、買い物をしてもらう。
全国には「ゲートウェイ型」と呼ばれる道の駅が多く存在するが、名乗るほどには簡単ではなく、実際には上手く機能せず苦労している道の駅も多いようだ。
そんな中、町内への誘導に成果を上げている道の駅がある。
道の駅「世羅」。2015年にオープンした、広島県にある道の駅だ。
道の駅で販売した、町内で使用できる商品券(花めぐりせらめぐりチケット)の今年(2017年)の利用数は昨年の倍以上。町内の施設利用が確実に増えていることがわかる。
その成果の裏には、明確な目的意識をもって道の駅を運営する、観光協会のスタッフ達がいた。
町の「インフォメーションセンター」に特化する。
広島県の中東部、尾道市の北側にある世羅郡世羅町。高原特有の大きな寒暖差が生み出す美味しい野菜や果物、お米などが豊富な町だ。多くの花畑や、全国有数の駅伝強豪校、広島県立世羅高等学校があることでも知られている。
山並みにも調和する建物。駅内には駅伝で有名な世羅高校グッズも。
道の駅世羅は、中国横断自動車道尾道松江線 世羅ICを降りるとすぐ見えてくる、一般社団法人「世羅町観光協会」が運営する道の駅だ。
のどかな山間、田園が広がる中に建つ道の駅は、周囲の風景に違和感なく溶け込んでいる。
取材に訪れたのは平日の午前9時頃。最初はまばらだった客足も30分ほどすると、レジ前に長い行列が出来るほどになっていた。
よく見るとレジのあるカウンターの上には大きく「SERA INFORMATION CENTER」という表示。並んでいるのは、会計待ちのお客さんだけではなかった。
平日の午前中でもこの賑わい。レジ上には「INFORMATION CENTER」の看板が。
「ここは、世羅町のインフォメーションセンターです。」と土田さんは話してくれた。ここでは道の駅全体が、商業施設にあるようなインフォメーションセンターの役割を担っているということなのだ。それも、世羅町全体の。
ここで案内する内容は、町内や周辺の観光スポット、飲食店など。これだけなら、他の道の駅と大差はないように感じる。
[左]「そらの花畑 世羅高原花の森」春から秋まで様々な花が楽しめる。11/12まで「ローズフェスタ」開催。
[右]「今高野山」歴史ある建物と色づく木々のコントラストが美しい、隠れた紅葉の名所。
ここで改めて道の駅内を見渡してみると、他の道の駅に比べ、全体的に商品が少ない印象。特に他の道の駅では人気の、生鮮食品が少ない。実はこれがこの道の駅の特徴の一つである。
「道の駅には各施設の代表的な商品を中心に、商品数を絞って置いています。なぜなら、道の駅だけで完結しないようにするためです。この売場で例えば、梨に興味を持っていただいたなら、梨が豊富に揃う町内の直売所をご案内させていただきます。道の駅内で限られた商品を選んでいただくより、豊富な直売所の商品から選んでいただけるので、お客様にも大変喜んでいただいています。」
世羅町内にはそれぞれ特徴のある直売所が各地に点在している。
基本的にご案内は道の駅スタッフが行うが、道の駅内の野菜や果物の売り場にはタブレット型端末が置いてあり、希望の商品が今、町内のどの直売所にあるか調べることもできるようになっている。
これで、スタッフに聞いた情報やタブレットで調べた情報を持って、どんどん人が道の駅から町の中へと足を運ぶようになる。
お問い合わせにはスタッフが即座に対応。右は農産物売場にあるタブレット。タイムリーに商品を売っている直売所がわかる。
「道の駅」から町の中へ人を呼び込む。
その目的に特化し、方策を忠実に追い続けた
町の「観光協会」が運営する道の駅の「成功のポイント」。
「オープン後しばらくは、他の道の駅との差をうまく伝えられず、戸惑うお客様もいらっしゃいましたが、今ではお客様にもこの道の駅の役割を理解していただけているようです。」
案内の役割を伝えるために駅内の表示を工夫したり、声かけをしたり、試行錯誤を繰り返した。日々のお問い合わせに対応する中で経験を積んだり、自ら勉強したりしてスタッフのご案内のスキルも上がっていった。その結果、様々なお問い合わせに対応できるようになり、訪れる人々から「道の駅のスタッフに聞けばわかる」という信頼を勝ち得ることができた。
道の駅スタッフの平均年齢は30.3歳。世羅高校からの新卒など、地元の若者を積極的に採用している。お客様からも「売場に活気があって、声もかけやすい」と好評だそうだ。
この、お客様が声をかけやすい環境も町の「インフォメーションセンター」として町へ人を誘導する、一つの武器である。
若いスタッフが活躍する道の駅世羅。活気ある売場は、お客様にも好評だ。 道の駅世羅は、土日になるとレジ通過者数が一日1,000人を超える。 「道の駅になって町のアピールがしやすくなった」と話す土田氏。買い物をしたお客様にチラシなどを渡して、イベントなどをご案内する。 道の駅を訪れる多くの人に対して世羅町をアピールするために、開発商品にも工夫がある。 左が「1杯の世羅」。お客様にも好評で「せらワイン」のPRにも非常に役立っている。 また、世羅町で生産されるお茶を使った商品や、世羅町をイメージしてブレンドされたコーヒー「世羅ブレンド」なども、町のアピールに非常に役立つらしい。 近年は、「道の駅」自体の認知度も上がり、道の駅を目指す観光客も多い。毎日多くの人が利用する道の駅で、町の情報を発信する意味合いは大きい。情報発信の機能を考えれば、道の駅は一つの「メディア」とも考えられる。
道の駅を「メディア」として活用する。
ここに集まる人々は、多少なりとも世羅町や周辺地域、道の駅に興味がある人々だ。ここにしっかりとアピールすることは、観光協会としても非常に効率がいい。
「新聞社やテレビ局などにプレスリリースを出したり、他の施設などにチラシやパンフレットを置いたり、などといった従来の方法に加えて、道の駅がオープンしてからは訪れたお客様のレジ袋に直接、町や道の駅のイベント、商品のチラシやパンフレットを入れて手渡すことができます。これは反響が大きいですね。」
「世羅町はワインづくりも盛んです。世羅町のワイナリーでつくられた『せらワイン』の美味しさをわかってもらうために『1杯の世羅』という商品を開発しました。よく知らないワインを1本まるまる買うのは少し勇気が要ります。『1杯の世羅』なら、ちょうどグラス一杯分のせらワインが入っているので、試飲感覚で買って味わっていただけます。これがとても好評です。」
「コーヒーやお茶というのは、いろんな応用が利くので便利です。例えば、お茶に合う和菓子を集めたイベントを行ったり、世羅ブレンドを使ったジェラートやお菓子を作ったり。世羅町だけではなく、周辺の地域の商品も巻き込んだイベントなども開催しています。コーヒー自体は世羅町産ではありませんが、ここだけで入手できるオリジナルのものです。地元産だけにこだわらなくても、素材として他の商品に使えたり、他の何かと一緒に組み合わせやすい商品があると、それを核にして展開が広げやすいですね。」
様々な展開ができれば、頻繁にお客様に話題を発信していくこともできる。
[左・中央]世羅オリジナルブレンドのコーヒー。店内で飲めるほか、コーヒー豆や粉を購入することもできる。
[右]世羅町産の茶葉を使った「せらせら茶茶茶」。運動の後にもぴったりの爽やかな味わい。
道の駅世羅では、この意味を十分に理解して、道の駅を町の情報を発信する「メディア」として活用しているのだ。
「道の駅」から町の中へ人を呼び込む。
その目的に特化し、方策を忠実に追い続けた
町の「観光協会」が運営する道の駅の「成功のポイント」。
地域内、地域間の連携を強化する。
地域の「ゲートウェイ(入り口)」として機能するにはまず、地域内の施設、直売所、生産者などとの連携が不可欠だ。
道の駅世羅では、町内の花農園や果樹園と協力してスタンプラリーを実施したり、世羅高原農場が始めた「世羅バーガー」のプロジェクトに参加し、道の駅オリジナルの世羅バーガーを作ったりして、積極的に町内の活動にも協力している。
また、常に生産者や直売所などとのコミュニケーションを図ることが、やはり重要だそうだ。
「お客様に満足していただくご案内をするには、直売所などから常に新鮮な情報をもらわないといけません。それには、気軽に情報を交換できる関係性が必要だと思います。今後の課題の一つとしても、さらに生産者や直売所との関係性を深めていくようにしたいと考えています。」
「世羅バーガー」は、世羅町産の素材を使ってご当地バーガーを作るプロジェクト。店ごとの違いも楽しめる。
必要な連携は町内だけに限らない。近接する「中国やまなみ街道(中国横断自動車道尾道松江線)」は、尾道市で「瀬戸内しまなみ海道(西瀬戸自動車道)」へとつながる。世羅町観光協会は、その2つの道路沿線にある13の自治体(島根県松江市〜愛媛県今治市)の観光協会でつくる「しまなみ・中国やまなみ街道沿線観光協会連絡協議会」に参加している。ここでは沿線の観光情報などの勉強会を定期的に開催し、情報を広く共有している。協議会内の地域で連携してイベントなども積極的に開催している。
また、広島県内でも、道の駅の広島県部会に積極的に参加し、他の道の駅の取り組みなどを学んでいる。
つながりのある町内の他の施設や他の地域への観光客が増えれば、道の駅世羅の来客も増える。また、道の駅世羅の来客が増えれば、つながりのある町内の他の施設や他の地域にも観光客が増える。その相乗効果は大きい。
交流のある瀬戸内海の島「大崎上島」の農園と、世羅町の農園とのコラボジャム。交流が、新しい商品も生み出す。
道の駅世羅の成功のポイントは
1.役割を明確にし、道の駅を町の「インフォメーションセンター」に特化したこと。
2.道の駅を情報発信の「メディア」として十分に活用したこと。
3.町内などの地域内、そして他の地域との連携を強化してきたこと。
地域から道の駅に期待されていることは、非常に多い。最近では、道の駅自体の売り上げ、利益も高いレベルで求められるようになっている。しかし、それを追求し過ぎれば、地域内の他の民間の店舗などに悪影響が出る恐れもある。自治体が設置・運営に少なからず関わる道の駅という施設は、非常に難しいバランスの上で運営が行われている場合が多い。
道の駅世羅の運営は、地元の観光協会だ。観光協会の目的はあくまで町の観光振興ではあるが、道の駅として利益を上げることも目指している。町の玄関口である道の駅に人が集まれば、それだけ町内に行くお客様も増える。道の駅に人が集まれば道の駅の売上げも上がり、出荷している町の人の所得も増える。その両方が町を盛り上げるためには必要だからだ。
世羅町観光協会ではまず、世羅町に足を運んでいただくために年間70を超える数々のイベントの打ち出している。
彼らが運営する道の駅世羅は、「道の駅」として表に立ち、人を集め、話題の提供、情報発信を積極的に行う。そして、地域へ人を動かすというサポート役もこなしている。
駅伝が盛んな土地だからだろうか。道の駅世羅は、町の第一走者として、まるで駅伝の第一走者であるかのように、後に続く町内の人々にしっかりタスキを渡すために今日も走り続けている。