「インバウンド」道の駅のおもてなしは世界に通用するか?!
道の駅みつまた in 新潟
海外へ向けたアピールだけではない。
「インバウンド」に対応するための
本質的な取り組みを実施する
道の駅の「成功のポイント」
駅長代理 池田幸一氏
新潟県南魚沼郡湯沢町の山間にある道の駅みつまた。
苗場山の入り口に位置し、春から秋は苗場山登山やトレッキング、冬はスキー客で賑わう道の駅だ。
この道の駅が最近、道の駅関係者や自治体関係者などからの注目を浴びている。
そのキーワードは「インバウンド」。
駅長代理の池田幸一氏のお話の中から、「インバウンド」に対応する本当の意味、本質的な取り組みとは何かが見えてきた。
柔軟に変化する「道の駅」。
道の駅みつまたは、この地区にあったダムの建設計画中止に伴う地域振興策の一つとして、平成25年秋にオープンした比較的新しい道の駅だ。湯沢町と群馬県のみなかみ町を結ぶ国道17号、通称「三国街道」沿いに位置し、それまで休憩所が少なかったこの道沿いで大変重宝されている。
店内のアウトドア用品売場。道の駅なのにこの品揃え。
旧街道にあった建物を模した駅舎は、近くの住宅地を目隠しするように、また、屋外の休憩所は、ベンチに座った時に目の前の国道が見えなくなるように設計してある。旅の「非日常感」を演出する工夫が随所に施されている。
道の駅内に入ってみると、土産物品や地場産野菜、軽食コーナーなどがある。だが一番目をひくのはアウトドア用品売場。「モンベル」や新潟県のアウトドアブランド「ユニフレーム」などの商品が並び、その品揃えはまるで専門店のよう。
「当初、他の道の駅のように、売場は地場産野菜や山菜を中心としてスタートしたんですが、雪のために農作物が収穫できない時期が半年もある地域なので、売場の品揃えが寂しい時期もありました。それならばと、山菜、雪下にんじん、八色スイカなど、人気のある旬の農作物を押さえながらも、山があり、川があり、スキー場があるという地域の強みを活かして、アウトドアに力を入れよう、と。その結果、アウトドア用品売場のおかげで、年間を通し売場商品も充実し、店内もオシャレな雰囲気になりました。」
アウトドア用品の販売でメーカーとタッグを組むだけではなく、メーカー主催のイベントなどにも積極的に出展して道の駅をアピールする。「道の駅自体が小さいので、道の駅の中だけで何かをしようとしていたのでは、大きな変化は見込めません。私たちはどんどん道の駅の『外』、町の『外』に出ていって、道の駅と湯沢町全体をアピールすることにも力を入れています。」
左:トレッキングツアーは観光客に大人気。
右:昨年好評だった、外国人ガイドによる「ナイト・スノーハイキング」。
また、トレッキングやツリークライミングなどのツアーも企画運営し、人気を博している。これも、お客様のニーズに応えた結果である。
お客様のニーズや、道の駅の置かれている環境に合わせて柔軟に対応していった結果、他にはない、個性的な道の駅となった。
「毎年、新しいことに挑戦しています。大きいことはできなくても、探り探り何かしら変化をつけてお客様に楽しんでもらいたいですね。ちなみに今年は自転車のレンタルも始める予定です。」
「インバウンド」道の駅のおもてなしは
世界に通用するか?!
おもてなしに国境をつくらない。
様々な取り組みの結果、道の駅みつまたの利用者は着実に増えている。
そして興味深いのが、平成26年度の無線LANスポットの外国語アクセス、特に英語圏のアクセスが、他の北陸地方の道の駅に比べてもダントツに多いこと。外国人利用者も数多くこの道の駅を利用していることがわかる。
湯沢町では、毎年夏に開催されるロックフェスの参加者、冬のスキー、そして近年は「雪」自体を体験するために訪れる外国人観光客などが増加していることもあって、道の駅の外国人利用者が増加していることが理由として考えられる。
しかし驚いたことに「うちには今、少し話せる程度ならともかく、外国語が得意というスタッフは一人もいません。」と池田氏は話す。それではどうやって、この増加している外国人利用者に対応できるのだろう。
「まず、懇意にしている旅行業者さんに協力してもらって、英語版のパンフレットと併せて、英語版のホームページを作成しました。あとはWi-Fi。北陸「道の駅」連絡会が推進している『北陸「道の駅」SPOT』(公衆無線LANスポット)を活用しています。英語のホームページとWi-Fiがあれば、お客様自身でわからないことも調べていただけます。」(池田氏)
スマホを利用されない方や、英語圏以外の利用者の場合はどうするのだろう。
「それは、全国『道の駅』連絡会関係者用のホームページに用意されている『外国人おもてなし会話集』をファイルしたものをレジのところに置いて、必要な時に取り出して参考にしています。そこには店頭でのやりとりで必要な内容が網羅されているので、外国語が得意なスタッフがいなくても、対応に困ったということはほとんどありませんね。」
左:英語版ホームページ(http://michieki-mitsumata.jp/en/)
右:全国「道の駅」連絡会が用意している「外国人おもてなし会話集」を道の駅みつまたでは活用している。
公衆無線LANスポット「北陸『道の駅』SPOT」を設置しているので、施設内では無料でWi-Fiが利用できる。
外国人利用者の対応にとって、もっと大切なことがある、と池田氏は話してくれた。「例え言葉がわからなくても、ジェスチャーなどを使って積極的にコミュニケーションをとることです。ジェスチャーでも思っている以上に言いたいことが伝わりますし、そのやりとり自体もお客様にとっては思い出になるはずですから。スタッフには、外国の方にも他の方々と同じように率先して声をかけるように、と伝えています。」
ポツンと一人で過ごしていた外国人の方に、スタッフがお茶とお茶菓子を出したことも。よく知らない異国の地でこんな温かいおもてなしを受けたら、きっと忘れられないだろう。実際にその方は大変喜んでくれて、後日再び訪れた時には、あちらから声をかけてくれたそうだ。
こういったやりとりの積み重ねから「安心して利用できる場所」として外国人の利用者に認知されるようになり、利用者の増加にもつながっているのではないだろうか。
「外国の方、国内の方と、対応でお客様を分けて考えたことはありません。積極的に声をかけるというのは外国人のお客様だけではなく、全てのお客様に対して同様です。その取り組みの成果なのか、これは主に国内のお客様ですが、最近ではスタッフを名指しで訪れてくれる方も多くなりましたね。」
左:スタッフ手作りのメニュー表。看板メニューは「けんちんもつ煮汁定食」。外国人利用者にも一番人気。
右:足湯も人気。こちらの案内も手作りのおもてなしの一つ。
「インバウンド」道の駅のおもてなしは
世界に通用するか?!
道の駅に本当に必要な「インバウンド」対応。
道の駅のある三俣地区は、湯沢町に5つある地区の中でも、最も人のつながりが強い地区だと池田氏は話す。
「もともと人数が少ない地区なので、学校でも年齢の上下に関係なく仲良くしないと遊べないような場所です。だから自然と人のつながりは強くなっていきます。」
今、道の駅を運営している会社も、池田さんを中心とした年代の、小さい頃から一緒に過ごしてきた仲間たちで組織している。
「道の駅の運営だけやればいいというだけではなく、会社のメンバーそれぞれが、町の消防団や山岳遭難救助隊、観光協会の役員なども担っています。会社のスタッフが町の組織に属することで、道の駅に各方面からの協力を得やすくなります。また、町の行事などにも積極的に顔を出して、町の人ともコミュニケーションをとることで、道の駅の運営にも理解を深めてもらえます。忙しくはなりますが、結果的に道の駅での仕事がやりやすくなりますので、道の駅がさらによくなるためには必要なことだと考えています。」
また、池田氏が道の駅の運営において一番大事にしているのはやはり「スタッフ」だという。
「どんなに素晴らしい道の駅だと言われても、商品の回転よりもスタッフの回転(入れ替わり)の方が早いような職場環境では意味がありません。そもそもスタッフが満足して続けられる職場でなければ、お客様に対して満足のいく対応などできません。地元でも、建設業なら『弁当と怪我は手前持ち』、サービス業なら『サービス残業は当たり前』という風潮はなかなか無くなりませんが、弊社ではそういったことの無いよう特に注意しています。」
道の駅みつまたの、外国人利用者にも通じる温かいおもてなしは、充実した職場環境で働くスタッフから、自然に生まれたものだ。
道の駅の前にある水場では、魚のつかみどりが人気。
今まではイベントの時が中心だったが、今後はいつでも参加できるようにしていく予定とのこと。
道の駅みつまたの成功のポイントは
1.お客様のニーズや道の駅の状況に合わせて、柔軟に対応してきたこと。
2.特別な対応をとるわけではなく、国内外問わず、お客様への心からのおもてなしを続けたこと。
3.町内、地区内、そして道の駅内など「内」へ向けたアクションも大事にしてきたこと。
「インバウンド」の問題を考えるとき、海外という「外」にだけ目が行きがちだ。
当然、外国人利用客への対応を準備することも必要である。だが、既に準備されているもの(全国「道の駅」連絡会の「外国人おもてなし会話集」や、各エリアの「道の駅」連絡会などが進める無線LANスポットなど)を活用するだけでも十分に対応は可能のようだ。
それよりも道の駅みつまたの取り組み方を見ていると、まず町や道の駅の「内」を充実させることが大事なのだということに気づかされる。
「インバウンド」とは「入ってくる、内向きの」という意味。
道の駅みつまたがインバウンドで成功しているとすれば、自分たちの町や地区の社会への積極的な参加、道の駅自体の雇用環境の改善などといった「内向きの」取り組みが、国内外問わず「入ってくる」お客様への心からのおもてなしにもつながり、それが結果的に、外国人利用者にも評価されたということだと考えられる。
今年からレンタル予定の自転車の前で、今後の展望を話す池田氏。
「とにかく私たちは、この町、地域に人が定住してくれることが最大の目標です。」池田氏はそう話す。
道の駅みつまたがやっていることは、そのために必要なことを考え続けた結果に過ぎないという。地域全体で協力して取り組まなければならない問題だが、まずは道の駅でできることをやっているのだ。
道の駅の職場環境を整えることで、スタッフ自身の満足感も高める。それによって、お客様に満足していただけるおもてなしを実現し、外からの人の流れをつくる。最初は観光客が中心だろうが、町に賑わいが生まれればやがてインフラや雇用も充実し、町の外へ出て行く人が減り、外から町に定住する人も増えてくる。
こう書いてしまうと先が長そうに見えるが、道の駅みつまたでは少なくとも、外からの人の流れをつくるところまで来つつあるようだ。
道の駅みつまたが続けてきた「内」への取り組み。それこそが実は、道の駅が担うべき、本来の「インバウンド」対応なのかもしれない。